津波を伝え続ける唐桑津波体験館
〜東日本大津波の27年前から津波体験を伝える〜
タクローレポート2
2019年6月20日、35年前(東日本大津波の27年前)から津波体験映像を提供している気仙沼市唐桑津波体験館を訪問した。
2017年春に、高知県黒潮町で近所の人に津波体験博物館を作りたいと話した時に、気仙沼出身の妙齢の女性から「津波体験館なら、ずっと前から唐桑にあるわよ!」と言われて、ショックを受けた。そんなに先を越されているのかと。その後、唐桑を訪問し凄い4D映像を見てからも衝撃を受けたが、タクローの会の津波実水体験博物館との違いが分かり、唐桑津波体験館があっても津波実水体験博物館を作りたいと思った。
津波体験館は唐桑半島ビジターセンター内に設置されている。ここはJR気仙沼駅からかなり離れた唐桑半島の先端にある。
このビジターセンターの更に海側にあるのが、御崎(おさき)神社である。この神社は、810年の古記録もある神社で、今までの数多くの大地震、大津波を経ても現存し、2011年の東日本大地震の大津波でも大きな影響を受けていないことから、歴史的に最大津波にも耐えられる位置に建てられていると言えそうである。
海から見ると、御崎神社の裏手にあるのが唐桑半島ビジターセンターで、35年の歴史ある落ち着いた感じの建物である。バスや車で行った場合にはこの写真の建物が、駐車場から正面に見える。
入口には「むすび丸」、玄関を入ると「ほや坊や(※)」が迎えてくれる。好きな人なら、入口前で、本人がほや坊やになって記念写真を撮ることもできる。(※正くはホヤぼーや)
さて、中に入ると、津波の色々なことが学べるのであるが、ビジターセンターの展示内容としては津波災害の歴史であるので、かなり暗い内容である。しかしながら、津波という災害を無くすことはできないことを理解し、せめて十分な対策が取れるようにと考えるなら、気を引き締めて津波災害の情報を学ばなければいけない。ここで学んだことが後日役に立つ可能性はあるが、学ばなければ助かる命も助からないのである。
津波の歴史を知り、過去の津波の情報が得られたら、自分の住んでいる地域で実際に津波が来た時に何をするべきか、そのために普段何を準備しておく必要があるか考えてみることが必要となる。
しかし、そこまで想像力を働かせるのはなかなか難しい。(「つなみてんでんこ」の話や、「釜石の奇跡」、「大川小学校の事例」などを取り込んで、訪問者に津波対策の要点を伝える工夫が欲しいように感じた。)
ここで、唐桑ビジターセンターのメインスタッフをご紹介しよう。
先ず、1人目が館長の千葉光弘さんで、下の左側の写真で、お気に入りのオルレ気仙沼唐桑コースの展示の前に立って頂いた。このオルレとは、韓国・済州島から始まったトレッキングで、韓国語で「通りから家に通じる狭い路地」を指すそうで、最近、宮城と九州で行われて人気になっているようです。宮城の気仙沼唐桑コースでは東日本大震災により海底から打上げられた100トンを超える巨大な津波石を見ることができます。
そして、2人目が唐桑町まちづくり協議会会長の戸羽芳文さんで、下の2番目の写真で、お気に入りのGPS波浪計の展示の前に立って頂いた。このGPS波浪計は、津波襲来の状況を沖合で把握して伝達することができるもので、極めて有用なものです。戸羽さんはオルレのガイド役も務めていて、津波体験館の実スタッフではないがビジターセンター周辺のまとめ役としてビジターセンターでなくてはならない人です。(なお、このGPS波浪計に関しては、その設置場所や、この有用な情報を的確かつ確実に(冗長化も含め)海岸沿いの住民に伝達できるようになっているかなどの課題が各地域であることが感じられた。)
この唐桑ビジターセンターは、基本1日2名(男性1名、女性1名)体制で運営されており、通常時には、優しい女性スタッフがビジターセンターの説明から津波体験館での体験まで面倒を見て下さるので、話を聞き難いとかの心配はなく、安心して見学、学習ができます。
(女性スタッフはすごく控え目で、写真を撮らせて頂けなかったので、行った時の楽しみとして下さい。)
さて、次に紹介するのが、本命の津波体験館です。
50人位が入る教室スタイルの別の建物(ビジターセンターの東隣)に入ります。
この津波体験館は、東日本大震災時の津波映像などを4Dで体験できる施設です。
前側全体が大きなスクリーンになっていて、更に天井と両側の側壁の前面側の一部もスクリーンなっていて、併せて3D感覚の映像を提供しています。更に椅子が震度4相当の揺れを提供し、水しぶきと風により津波を4Dで体験できます。(映画ボヘミアンラプソディの4Dで雨を体験した人には分かると思いますが、風もプラスされてもっと凄いとも言えます。)
最初の写真が前面スクリーンの下部、2枚目に後方の映写設備と震度4を体験できるイスが映っています。3枚目が前面のスクリーン下部に貼られているAmerican Jewish Committee(ここでは簡単にアメリカユダヤ人協会と訳します点ご了解下さい。)のプレートの写真で、この協会の厚意によって、この映像は作成され提供されていることを示しています。
この津波体験館では、映像とその他の補充設備で、一般人が安全に体験できるように工夫されていますので、一度は体験することはお勧めです。ここでの体験が役だったと思われる話をいくつか聞きましたので、繰り返し体験することも大事であると感じました。
ビジターセンター内には別の展示もありますので、ちょっと見て自身の津波防災に役立ちそうなら、情報収集しておきましょう。
又、ビジターセンターのお土産では御崎神社のはじき猿が縁起物で、お勧めです。
御崎神社近くは散策コースになっています。御崎灯台は期待しすぎないように。
唐桑での美味しい食べ物には、ほやとウニ(季節限定)があります。又、近くでは牡蠣の養殖もしているとのこと。それぞれの旬の時期を事前調査して行くのがお勧めです。
タクローレポート補足
このタクローレポートは、NPO法人タクローの会が高知県黒潮町と岩手県宮古市田老に津波実水体験博物館を設立することを実現するにあたって参考にする(将来的な連携も含める)ために、今ある津波関連施設を見学・インタビューしてその特徴を報告するものです。今回レポートする施設に関する補足を下記にまとめました。
1. 名称:唐桑津波体験館
2. 場所:宮城県気仙沼市唐桑町崎浜4の3
3. 特色:
- アメリカのユダヤ協会からの寄付金で作成された4D映像動画で、実体験に近い津波状況や災害を見ることができ、体の5感で津波を類似体験できる点が一大特徴。
- 防災情報は各人が津波体験館の映像や、ビジターセンターの展示物から感じ取ることが中心であり、施設からの働きかけは少ない。
- 職員4名(2名/日)で年間5千人(ピーク時1993年4万9千人)の見学者に対応している。最近の状況では予約は不要である。
- リピーターは減少傾向にあり、施設のリニューアルを検討中と聞いた。小学生の津波災害学習となるようなプログラムを提供できれば、県内及び周辺県の小学生全員の来場が期待でき、入館者増につながるかもしれない。
4. 東京駅からのアクセス(2019年6月時点):
- 東北新幹線、JR大船渡線、気仙沼市路線バス御崎線を使って最短で約7時間、料金は片道1万5千円程。
- JR大船渡線が一ノ関駅から2時間に1本しかない時間帯があることと、新幹線から乗り継ぎに1時間かかる場合もあることから不便。又、これだけで1時間半近くかかるので、ネックになっている。路線バスは、JR気仙沼駅から徒歩で15分位かかる三日町バス停から乗る必要があり、便数も2時間に1本しかない時間帯もあり、より時間がかかってしまう。
- 新幹線で一ノ関駅まで行って、レンタカーを借りれば、新幹線2時間半、レンタカー1時間半程度であり、最も効率的と思われる。
- 羽田から仙台空港まで飛行機で行ってレンタカーを使用する方法もあるが仙台空港から2時間半ほどかかるので、新幹線ルートがお勧めである。
- 車によるアクセスも考えられるが、東京からだと、一ノ関までで新幹線の時間(2時間半)の3倍以上かかると思われるので、かなり難しい。
5. 料金設定:個人大人360円、高校生260円、小中学生160円
- 料金設定が施設内容に比べ安い。もっと高くして、定期的に映像や展示物のリニューアルを図るべきと思われる。
[NPO法人タクローの会]